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Interviewインタビュー

2022年5月号

量子ICTやバイオICTなど
従来と全く違う発想で未来拓く

和田尚也 氏

和田尚也 氏
(わだ・なおや)
1998年 郵政省通信総合研究所(現・情報通信研究機構)入所。2000年 同 光技術部 光通信技術研究室 研究マネージャー、2009年 独立行政法人情報通信研究機構 超高速フォトニックネットワーク研究室長、2016年 国立研究開発法人情報通信研究機構 ネットワークシステム研究所長を経て、2020年より 同 未来ICT研究所長。博士(工学)

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
未来ICT研究所長
和田尚也 氏

「そろそろ皆さん、限界に気づき始めている」。NICT 未来ICT研究所長の和田氏はこう話す。従来の延長線上だけでは、これまで急速に発展してきたICTも、もうじき壁に突き当たることが見えてきたのだ。そこで未来ICT研究所が取り組むのが、従来の概念を超えたイノベーション。量子コンピューターや量子ネットワーク、さらにバイオICTや神経網ICTといった「生き物に学ぶ」ICTに挑んでいる。

NICTというと、Beyond 5Gや光ファイバー、サイバーセキュリティなどに関する研究開発が有名ですが、バイオICTや脳情報通信など、既存のICTの枠には収まらない研究開発にも注力していることはあまり知られていないかもしれません。そうしたICTの新しい可能性を切り拓く領域をNICTで担当しているのが未来ICT研究所です。

和田 NICTの研究開発体制は1年前、次の5つの研究所に再編されました。電磁波研究所、ネットワーク研究所、サイバーセキュリティ研究所、ユニバーサルコミュニケーション研究所、そして未来ICT研究所です。
 我々以外の4つの研究所は、名前を見れば研究分野が分かります。それに対して、未来ICT研究所は名前を見ても一体何を研究しているのか分かりにくいと思いますが、実際、研究テーマはかなり幅広くなっています。

「従来の概念を超えたイノベーションの創出と育成」という目標を和田研究所長は掲げていますが、そうした可能性のある研究が集まっているのですか。

和田 そうです。未来ICT研究所の研究領域は「フロンティアサイエンス分野」と設定されています。以前はフロンティア研究分野だったのですが、2021年4月に変更され、フロンティア(辺境)にサイエンス(科学)が新たに追加されました。
 その狙いはこのように説明できます。情報通信の研究開発は、既存の技術をさらに発展させていくエンジニアリング(工学)のアプローチが中心かと思います。一方、既存技術の延長線上ではなく、まだ誰も気づいていないような分野を研究開発するのがサイエンスと言えます。
 不毛にも見えるフロンティアをサイエンスで切り拓き、情報通信に使える技術を見出し、育成して広げていく──。そうしたフロンティアサイエンス分野の研究開発を行うのが未来ICT研究所です。

量子ネットワークで中国上回る

未来を見据えた多様なICTの研究開発が行われている未来ICT研究所ですが、もうじき花が開きそうな技術もありますね。量子力学を応用した研究開発です。

和田 未来ICT研究所の量子ICTに関する取り組みは、大きく2つに分けることができます。1つは量子コンピューター、もう1つは量子ネットワークです。
 量子コンピューターは、従来のノイマン型とは全く違う原理で動くコンピューターです。量子の重ね合わせ状態を用いて、非常に複雑な大量の計算をきわめて短時間で実行できる可能性を持つことが特徴です。
 ただ、量子コンピューターを実現するには、非常に特殊なデバイスが必要です。いろいろなやり方があるのですが、量子コンピューターも計算機の一種ですから、基本単位となるのはビットで、「量子ビット」と呼ばれる量子コンピューターの基本単位をどう作り、どう制御するかがポイントとなります。
 その代表的なアプローチの1つが、我々も開発に成功している「超伝導量子ビット」です。NICTでは窒化ニオブという新材料を用いて、量子ビットのコヒーレンス時間(量子性を保つ時間)を長時間安定的に保つ技術を開発しました。量子コンピューターをめぐっては、世界中で激しい開発競争が繰り広げられていますが、我々の超伝導量子ビットの技術は、量子コンピューターの実用化にかなりの寄与ができると考えています。

量子コンピューターが実用化されると、従来不可能だった計算もできるようになるわけですが、解ける可能性のある「問題」の1つに既存の暗号方式があります。そこで注目が高まっているのが量子暗号通信です。光の量子力学的性質を利用することで、量子コンピューターが登場しても盗聴・解読のリスクがありません。

和田 NICTは量子ネットワークに20年以上前から取り組んでいます。特に社会実装への期待が高いものはQKD(Quantum Key Distribution:量子鍵配送)です。鍵だけを量子ネットワークのチャネルで送信し、データ伝送は普通のチャネルで送信する方式です。

東芝やNECなどが商用化に取り組んでいる量子暗号の方式ですね。

(聞き手・太田智晴)
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